ワラからワラスサを作る

以前のブログで、畳を解体してたくさんのワラを入手しました。
(畳を解体してワラにする)
今回は、そのワラを使って「ワラスサ」というものを作ってみます。

「ワラスサ(藁苆)」は、土壁の材料の一つで、「中塗り」という工程に使われるものです。
この写真は、以前参加した伝統構法の研修会で見させていただいた、「中塗り」の見本です。

右の壁の中央付近に塗り残されているひび割れた壁が、「荒壁」で、最も原始的な土壁になります。
この荒壁の上に、中塗り→上塗り(漆喰など)と塗り重ねていくのが左官壁の基本になります。

荒壁は、強くこするとぼろぼろと落ちてくるので、コストをかけない建物でも、中塗りまで塗ることが多いです。
しかし、にふ建築舎の建物は、全て荒壁のままになっているので、できれば中塗りをしたいところです。

中塗りの材料は、土、砂、そしてワラスサの3つです。
研修会でも、このワラスサを触らせていただきました。

土と砂はまた考えるとして、このワラスサを自前でつくることができれば、自力的な伝統構法の実践として大きな意味を持つはずです。
それというのも、このワラスサの製造技術は、現在進行系で、「失われた技術」になりつつあるためです。

ネット上を探してみても、「もう作る人がいない」「手に入りにくい」「作り方がわからない」という情報ばかりで、具体的な作り方は全く出てきません。
数少ない人たちが製造機械を使って作っているようですが、それを運用できなくなれば、本当に手に入らなくなってしまいます。
何とかこの作り方を再現したいと思い、調査・実験を行ってみました。

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色々と土壁関係の文献をあたりましたが、詳しい情報にはなかなかたどりつくことができません。
最も詳細な記述は、1954年に著された『日本壁の研究』[1]という本の次の一節でした。

“荒壁には藁を6糎程の長さに切つたもの、中塗には”揉切”を使う。揉切(もみ苆)は藁を2糎程の長さに切り、節の部分を除き水につけ叩きほぐしてやはらかくしたもので、筋の除去の程度や叩き方の多いものを上揉苆とよんでいる。上塗りには”みじん苆”といつて1糎程に切り、 節を除き藁の細い繊束にまで叩きほぐした細いものを用う。 左官材料商が取扱つているのは揉苆やみじん苆で荒壁用のものは現場で古繩、古俵等から作られる。 現場で作るときも、みじん苆を作るときも藁は長く水につけて、 繊維間を膠着するリグニン、ペントザン等が溶出した後叩いてほぐす。 此の方が繊維がほぐれ易く、苆として柔軟性がある。荒壁土と一緒に荒苆を水つけしたものは、藁から溶出した前記の膠質物が粘土の風化、 粘性の増大に貢献するやうである。そのため粘士の曲げ強度等も若干向するといふ。”(『日本壁の研究』pp.95-96)

要するに、切って、水につけて、叩きほぐせば作れるということなので、実際にやってみました。
材料は、ワラと雪解け水。
道具は、ハサミ、ボウル、ワラ槌、大きな石です。

まず、一束のワラを用意し、切断します。
「藁切」という機械を買えば早いのですが、1万円以上してしまうので、枝切りハサミを使用しました。

その後、ボウルにワラを入れ、水に漬けます。
現在、にふ建築舎には水道がないので、雪を使いました。

1週間ほど水に漬けた状態がこちらです。

水は茶色く濁っています。
これが溶け出した「リグニン」「ペントザン」という成分の色なのでしょうか。

吸水したワラをひとつかみ掴んで石の上に置き、「ワラ槌」という道具を使って叩きほぐしていきます。
「ワラ槌」は、ワラ細工のためにワラを叩いて柔らかくするための道具で、少し値は張りますがネットで購入することができます。

叩いていくと、ワラがだんだんとほぐれていきます。
叩くたびに水が勢い良く飛び散るので、汚れ対策は必須です。

手も使って揉みほぐしつつ、200回くらい叩いていくと、ここまでほぐれてワラスサの見た目になりました。
ワラはとても繊維が丈夫で、以前も何度か別の方法で実験をして失敗しているので、ほぐれてくれたことに感動です。

乾燥させた状態がこちらです。

商品として販売されているものに比べると、大きさにばらつきがあり、潰れきっていないワラも混ざっています[2]。
プロの左官に使うには厳しいかもしれませんが、ワラスサと呼べるものは作れたのではないでしょうか。
早いところこれを使って中塗り土を作ってみたいです。

今回、ボウル1杯分のワラを全てほぐすのに、1時間ほどの時間がかかりました。
さらなる作業効率化と品質改良を図るため、実験を繰り返していきたいと思います。

水をつくるところからはじまる。

(2026.02.23)

  1. 『日本壁の研究』、中村伸、相模書房、1954年
    本書は入手困難のようですが、国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。
    https://dl.ndl.go.jp/pid/2425033 ↩︎
  2. 『日本壁の研究』では最初の工程で、ワラを2センチ程度の長さに切断すると記載がありますが、今回は少し長めに切断しました。その結果、潰れきらないワラの嵩が大きくなりましたが、最初に短く切っておけばより粒度が均一になると考えられます。 ↩︎